有酸素運動に毛髪への影響はあるのか?

有酸素運動が、髪の毛を生やすとか、毛髪環境に直接なんらかの影響を与えるということはありません。ただし、頭皮の状態を改善し、発毛・育毛しやすい環境を整える全身からの取り組みとしては、とても好ましい運動といえます。

そもそも有酸素運動とは、長時間でも続けられるような軽度~中程度の負荷のもとで、主に好気的な代謝によってエネルギーを得る運動のことを意味します。「好気的」とは、酸素を消費する過程のことです。

これに対して、無酸素運動とは、酸素を使わずにエネルギーを得る代謝(嫌気的代謝)を行う、比較的負荷の高い運動を意味します。運酸素運動・無酸素運動の違いは、エネルギーを取り出す仕組みの違いにあります。

なお、人間は酸素呼吸が無ければ生存できない生物ですし、無酸素運動によって生じた体内の生成物も、酸素が必須の代謝回路(クエン酸回路)で代謝されるため、有酸素運動・無酸素運動ともに結果的には同じ代謝をもたらします。

その一方、毛髪の健全な生育のためには、毛根にたっぷりと酸素が供給される必要があります。もちろん、酸素や栄養分を送り届ける毛細血管が、十分に機能する状況も必要です。有酸素運動は、こうした毛髪環境を整えるのに好ましい影響を与えてくれます。

ここでは、有酸素運動の代謝の仕組みが、どのような代謝をもたらし、筋肉や血管への影響を通じて毛髪環境をいかにサポートしてくれるかを詳しく説明します。

有酸素運動の代謝経路

発毛・育毛に必要な酸素や栄養分を毛根に届けるのは毛細血管です。毛細血管は身体中を網の目のように張り巡っており、血液の流れによって全身のすみずみにまで酸素や栄養分が運搬されます。

他方で、筋肉は、この血液の流れ(血流・血行)を左右する重要な組織です。全身に血液を送り込む心臓も心筋という筋肉が支えていますし、毛細血管も身体中の筋肉無しには十分な運搬機能を果たせません。

特に体重比で成人男性の42%、同女性の36%を占める骨格筋は、血行など人間の生命活動を支える重要な筋肉です。この骨格筋のエネルギー源は、アデノシン三リン酸(ATP)という物質です。

体内でATPはアデノシン二リン酸(ADP)とリン酸に分解されますが、そのときに発生するエネルギーが筋肉の収縮に使われます。ただし人間は、ATPをたっぷりと貯蔵することが出来ず、すぐに使い切るため、ATPの再合成を行うことでエネルギーを発生させます。

ATPの再合成によってエネルギーを取り出す仕組みには、リン酸系、解糖系、有酸素系という3つの代謝があります。

リン酸系(CP系)は、クレアチンリン酸(CP)の分解によって嫌気的にADPからATPを生成し、エネルギーを取り出すものです。リン酸系では酸素は消費されません。

解糖系は、グルコース(糖の一種)をピルビン酸や乳酸に分解する代謝経路です。グルコース1分子あたり2分子のATPを生成、消費することによりエネルギーが発生します。解糖系は好気呼吸の一部としても機能しますが、嫌気状態でも機能する代謝経路の代表的なものです。

有酸素系とは、クエン酸回路と電子伝達系という代謝経路を通じて、グルコース1分子あたり38分子のATPが生成され、エネルギーを取り出す仕組みです。先ほどの解糖系、クエン酸回路、電子伝達系の3つの反応を合わせて、好気呼吸の過程となります。

なお、中程度~軽度の負荷で相対的に長めの運動を行うことは、たくさんの酸素を消費することにつながり、相対的に短い時間のうちに高い負荷の運動を行うことは、嫌気的な代謝につながります。

こうしたことから、ATPの再合成によってエネルギーを取り出す3つの仕組みのうち、有酸素系からエネルギーを得る運動が有酸素運動であり、リン酸系と解糖系からエネルギーを取り出す運動が無酸素運動といえます。

有酸素運動と頭皮環境

有酸素運動は、酸素呼吸を中心にした好気的な運動といえます。このため、心肺機能の改善により、体内への酸素の取り込みが円滑になる効果が得られます。

また、有酸素運動によって心筋の発達も促し、血流・血行の改善を通じて、全身的な血液循環の向上にもつながります。有酸素運動は骨格筋が十分なエネルギーを得ることにつながるため、毛髪に酸素や栄養分を送り届ける毛細血管までこうした効果が期待できます。

有酸素運動は、中性脂肪や体脂肪の減少、さまざまな慢性疾患(冠動脈疾患、高血圧、大腸がん、糖尿病、骨粗鬆症など)の予防といった効果も知られています。

さらに、アメリカスポーツ医学会では、有酸素運動は不安や抑うつ感を軽減し、健全感を高める効果が期待できるとしています。こうした精神的・心理的なリラックス効果も、全身から頭皮環境にも良い影響を働きかけるものです。

最も手軽にできる有酸素運動としては、ウオーキングが挙げられます。あまり無理をせず、急に息が上がらない軽度~中程度の負荷をかけて、毎日20~30分歩くことを習慣づけることが、非常に効果的です。

有酸素運動は、心筋機能や血行・血流の改善によって全身に酸素や栄養素が行き渡り、代謝を促進する優れた運動です。この効果が頭皮環境にも行き渡り、毛母細胞の活性化から健全な毛髪の生育を期待することも可能です。