毛髪にはタバコをやめて禁煙を

タバコは毛髪に悪い影響を与えます。髪の毛のことを考えるなら、ただちに禁煙すべきです。タバコが髪の毛にもたらす最も悪い影響は、毛細血管の収縮とそれによる血圧の上昇です。

タバコに含まれ、人体に大きな影響を及ぼす物質は、ニコチンです。ニコチンは、タバコに含まれる天然由来の物質であり、揮発性がある無色で油状の液体です。

ニコチンは、神経細胞(神経単位、ニューロン)に特異的に作用する毒性を持った物質であり、これを「神経毒性」といいます。ニコチンは、覚醒剤や麻薬のような「精神毒性」はありませんが「神経毒性」を持っており、日本では毒物および劇物取締法に規定される毒物です。

発がん性に関しては、ニコチンそのものには発がん性は無いものの、摂取したニコチンの代謝によって生じるニトロソアミンには発がん性があることが分かっています。

ここで、たばこに含まれるニコチンが、いかに人体に作用するかについて、髪の毛への影響という観点を中心に説明します。

ニコチンの毛髪への影響

ニコチンの影響は、アセチルコリン受容体(AChR)のうちニコチン受容体(nAchR)に作用することで、その効果が発現すると考えられています。アセチルコリンは神経伝達物質の1つであり、筋肉の収縮、脈拍の調整、唾液の生成を働きかける物質です。

受容体(レセプター、リセプター)とは、ある刺激を受け取ったとき、なんらかの反応を導く仕組みのことです。例えばアセチルコリン受容体は、アセチルコリンの働きかけを受けとめる仕組みといえます。

その一方、アセチルコリン受容体は、ニコチン性アセチルコリン受容体、ムスカリン性アセチルコリン受容体に大別され、それぞれニコチン受容体(nAchR)、ムスカリン受容体(mAchR)としても機能します。

このうちニコチン受容体は、中枢神経系や末梢神経系に存在します。この受容体は中枢神経では幅広く存在するため、脳に幅広い影響を与えます。

人間の中枢神経は脳と脊髄に存在しており、このニコチン受容体にニコチンが刺激を及ぼすと、快感や興奮、依存性を形成する作用を及ぼします。

その一方、末梢神経系においても、ニコチン受容体がニコチンからの刺激を受けるのに加え、中枢神経での作用が間接的に波及して、毛細血管の収縮とそれによる血圧の上昇をもたらします。

毛細血管の収縮は、髪の毛の生育に必要な酸素や栄養分を毛根に運搬する毛細血管の役割を低下させ、健全な毛髪の成長を阻害する可能性があります。毛細血管の収縮は高血圧をもたらし、血流を悪化させる原因となります。

これだけでなく、ニコチンには強い依存性があります。WHO(世界保健機関)もニコチンの依存性に関しては、ヘロインやコカインと同程度に高い依存性があると発表しており、たばこをやめたくてもなかなかやめられない禁煙の困難さの原因となっています。

ニコチン依存症

たばこによる常習的な喫煙は、薬物依存症の一種(ニコチン依存症)を引き起こす可能性があります。ニコチン自体の依存性に加え、たばこを吸う行為への習慣依存や、禁煙に対して合理的ではない思考パターン(精神医学の分野で「認知の歪み」といいます)が加わると、自分の意思で禁煙することが困難なニコチン依存症の状態となります。

タバコを吸うと一時的には、ニコチンによって快楽、覚醒、興奮といった作用がもたらされます。しかし、それとともに、イライラや不安といった気分も持ち込まれます。

依存症患者は、依存の対象となる物事を減らしたり断ち切ると、その離脱に伴う不快感から回避しようとして、同じ物事を探し求めます(離脱症状)。

ニコチンという物質依存の離脱症状は、禁煙を始めてから3日以内がピークの状態で、その後徐々に低下します。しかし、3日以降でも禁煙できない方が多いのは、ニコチン依存の場合、先ほど挙げた習慣依存や心理的な依存の影響が大きいと考えられています。

ライトたばこで健康リスクは低減しない

日本では、たばこ事業法に基づく財務省令により、国際標準化機構 (ISO) が定めた方法でニコチン量が測定され、たばこ製品の包装に表示されています。日本では、たばこ1本あたりのニコチン量は小数点1桁までの数値で表示されることになっています。

たばこの中には、マイルド(MildまたはMilds)、ライト (Lights) などという記載を用いて、ニコチン量が少ないたばこが販売されています。これらは一般に「ライトたばこ」と呼ばれ、学術的には「低収率紙巻たばこ」と言われています。

ただし、ライトたばこによって健康への影響が低下したという科学的な研究成果は確認されていません。むしろ肺がんのリスクに関しては、たばこを吸わない方と比較した場合のリスクが、高い水準で推移してきたといえます。

これについては、従来のたばこと比較して、深く吸い込む行動につながっていることが大きな要因では無いかと指摘されています。ライトたばこは、深く吸い込む、呼吸を止めるなど、気分を満たすための摂取法を促すことで、かえって健康リスクの低下につながる可能性があります。

また、ライトたばこは、従来からの快楽効果の水準を維持しようとして、一日あたりの喫煙本数を増加させ、結果的に従来以上のニコチンの摂取をもたらす可能性があります。

さらに、ニコチンを効率よく吸収できるよう、煙を深く吸い込みやすいタバコ自体の設計の変更や、女性が男性のように早い年齢から喫煙を始めるようになったことも、たばこの健康への影響が高い水準で推移している原因と指摘されています。

表示上のニコチン量や、マイルド、ライトといった商品名の表記は、健康に関するリスクの軽減とは何の関係もありません。体に入るニコチンの量は、吸い方や喫煙本数が大きく関わるものであり、これは喫煙の習慣や依存度も大きく関係しています。

禁煙は毛髪と全身のために

ここまで見てきたように、タバコに含まれるニコチンは、非常に強い依存性を示すだけでなく、毛細血管の収縮を通じて血流の悪化と高血圧をもたらし、髪の毛の成長を阻害する大きな要因となります。

ニコチンが末梢神経を通じて作用させる毛細血管の収縮は、毛髪環境にとどまらず、全身的な影響を与えます。脳の血管への影響を通じた脳梗塞、心臓に栄養を供給する冠動脈への影響を通じた狭心症や心筋梗塞、手足の血行不良による手先・足先のしびれといったリスクを抱えることになります。

また、ライトたばこだから良いとか、ニコチン量を抑えたタバコだから良いということはありません。タバコからのニコチンの摂取量は吸い方や喫煙本数に左右されますし、非常に強い依存症を持った物質でもあります。

髪の毛に優しい環境を取り戻す上でも、禁煙は必ず取り組みたい事柄の1つといえます。物理的にニコチンの摂取をやめる治療と、心理的・精神的な依存体質を取り除くことが、禁煙を成功させることにつながります。

日本では2006年4月から、医療機関でのニコチン依存症を対象にした禁煙治療が、公的な健康保険制度の適用となりました。治療の中心は、心理面・精神面で禁煙を支援するカウンセリング療法と、身体的な依存からニコチンを抜くニコチン置換療法の併用が一般的です。

現在では、非常にさまざまな禁煙用品が開発されていますし、公的健康保険の適用範囲になったことで、禁煙外来を開設する病院も増えています。毛髪環境にとどまらず、自分の体を守るという観点からも、禁煙を実現させることが必要だといえます。