AGA(男性型脱毛症)の診療ガイドライン

「男性型脱毛症(AGA)診療ガイドライン」は、2010年に公益社団法人の日本皮膚科学会が発表しました。日本皮膚科学会は1900年(明治33年)創立の皮膚科に関する学会であり、日本医学会に加盟する学術団体です。

このガイドラインが策定された背景には、男性型脱毛症に対する有効な治療法が開発されて広まる一方、科学的な根拠に基づかない治療法も後を絶たず、医師と患者双方にとって標準的な治療法を確立することが有益と考えられたからです。

このようなガイドラインは欧米でも策定が進んでいますが、人種の違いや社会的背景、医療制度の違いといった点から、日本の実情に沿った形で策定が行われました。

このガイドラインは、医療機関が実施する医療行為としての男性型脱毛症(AGA)の治療に関して、医師と患者の両方への標準的な目安として機能しています。AGAで悩む方にとっては、病院や診療所で受診する際の大きな参考材料といえます。

今回はこの「男性型脱毛症(AGA)診療ガイドライン」を詳しく取り上げ、医療行為としてのAGAの治療法は、どんなものが望ましいとされているのかについて説明します。

男性型脱毛症診療ガイドラインの位置づけ

「男性型脱毛症(AGA)診療ガイドライン」は、わが国における男性型脱毛症の標準的治療試案として作られたものです。個々の患者の治療では、それぞれの患者に特有な背景や病態に配慮しながら、最適な治療法が提供されることが重要だとしています。

このため、個々の患者への治療の選択に際して、このガイドラインの内容に合致するよう求めるわけではなく、医師の裁量を制限して治療方針を限定するものでもないことが明記されています。

また、実際にAGA診療ガイドラインの策定にあたったガイドライン策定委員会では、このガイドラインを医事紛争や医療訴訟の資料として用いることは、本来の目的から大きく逸脱するものであり、同委員会としては容認できないとしています。

なお、このガイドラインの策定に要した費用は、日本皮膚科学会ガイドライン策定委員会の研究費が使われています。委員が関連特定薬剤、療法の開発に関与した場合は、当該治療の推奨度判定には関与しないこととしています。これ以外に各委員は、ガイドライン策定にあたって明らかにすべき利益相反はなかったとされています。

男性型脱毛症(AGA)の治療方法の推奨度

この「男性型脱毛症(AGA)診療ガイドライン」は、レベル分類されたエビデンス根拠(科学的な根拠)に基づき、AGAの治療方法について、推奨度を5段階に分けていることが大きな特徴といえます。

この推奨度はA、B、C1、C2、Dという5段階のランクに分かれており、以下のように位置づけられています。

最も高いAランク(行うよう強く勧められる)には、「フィナステリドの内服(男性)」と「ミノキシジルの外用」が挙げられています。これらは日本でも世界各国でもとても高い評価を得ており、薄毛治療の標準的な治療法といえます。

これらは薬効成分の名称であり、商品名としては、フィナステリドは「プロペシア」(MSD社。かつての旧・万有製薬)、「ミノキシジル」は「リアップ」(大正製薬)として販売されています。

フィナステリドとミノキシジルについては、それぞれAGA治療薬・フィナステリドとは発毛薬・ミノキシジルとはで詳しく説明しています。

2番めのBランク(行うよう勧められる)には、「自毛植毛」が挙げられています。自毛の移植ですから免疫反応の心配がなく、適切な検査が受けられる医療機関と習熟度の高い医師のもとで行えば、安心して受けることができる治療法といえます。

ただし、自毛植毛は、医師の経験や技量によって、手術の成否や術後の経過、仕上がり具合や定着率などが大きく左右される治療法です。このガイドラインでも、自毛植毛は、「十分な経験と技術を持った熟練者が行う場合に限って推奨する」と条件を限定しています。

C1ランクは「行うことを考慮してもよいが、十分な根拠がない」とされています。これには、「塩化カルプロニウム」「t-フラバノン」「アデノシン」「サイトプリン・ペンタデカン」「ケトコナゾール」の外用が挙げられています。

C2ランクは「根拠がないので勧められない」とされる治療法です。これには、「セファランチンの外用」が挙げられています。

最低ランクであるDランクは、「行わないよう勧められる」と位置づけられています。これは「行うべきではない治療法」、つまり、患者から見れば、「受けるべきでは無い治療法」ということが言えます。

Dランクは、「人工毛植毛」と「フィナステリドの内服(女性)」が挙げられています。このうち人工毛植毛は、免疫反応から来る拒絶反応により、炎症・化膿・アレルギー症状のリスクが高く、細菌感染からの感染症リスクにより、重大な結果を招く可能性もあります。

一方、フィナステリドの内服は男性にはAランクなのですが、女性にはDランクです。フィナステリドは男性ホルモンを抑制する効果があるのですが、もともと男性ホルモンが少ない女性が服用すると、体のホルモンバランスを崩す危険性が高いといえます。

特にフィナステリドは、胎児への悪影響が指摘されている薬剤です。女性がフィナステリドを服用することは、人体への大きなリスクを与える可能性につながるため、一般に避けるべきだといえます。

AGA(男性型脱毛症)の診療とカツラ

ところでこの「男性型脱毛症(AGA)診療ガイドライン」では、「整容的対処法」と題して、カツラについて別途取り上げています。

それによれば、かつら(義髪)の使用は治療ではないが、男性型脱毛症の外観をカムフラージュし、自毛を補填するためには重要なパーツである、と位置づけています。

そして、かつらの有用性を示す客観的データはないもの、男性型脱毛症患者においては、かつらによる整容的な改善が期待でき、大きな副作用の報告もないことから、ガイドライン策定委員会はかつらの使用を否定しないと結論づけています。