円形脱毛症とは

円形脱毛症とは、頭に円形または楕円形の脱毛部分(脱毛斑)ができる脱毛症です。俗に「十円ハゲ」という通称で呼ばれることが多い疾患ですが、発症の原因が異なることから男性型脱毛症(AGA)とは区別されることが多い脱毛症です。

ひとくちに円形脱毛症といっても、発生する場所や進行の度合いはさまざまです。原因は自己免疫反応であることが明らかになっており、円形脱毛症は自己免疫疾患といえます。

円形脱毛症は永久脱毛になることは無いことがわかっており、自然に治癒する方も数多くおられます。医療機関で治療を受ける場合は、ステロイド剤を処方されることが一般的です。今回は、こうした円形脱毛症の症状・原因・治療について取り上げます。

円形脱毛症の症状

円形脱毛症は、発症した方の年齢を調べると、30歳以下の方が8割を超えています。生まれたばかりの幼児でも発症が見られますし、15歳までに発症する方が2割を超えています。

また、男女によって発症に差がある疾患ではありません。どちらの性別でも、どの年代でも発症しうる疾患ですが、発症した方の割合を見ると、女性のほうが若干高い傾向があります。特に、生理や出産によって、悪化する方もいれば、改善あるいは治癒する方も存在します。

円形脱毛症は、脱毛斑(脱毛部分)が1箇所とは限らず、2箇所以上生じる方もいます。その一方、眉毛、まつげ、あごひげ、脇毛、陰毛などが抜けてしまう方もおられます。ここで、こうした円形脱毛症のタイプを見ていきましょう。

単発型

円形脱毛症の中で最もよく見られるのが単発型です。多くの場合は十円玉サイズの脱毛斑が見られますが、この大きさには個人差があります。半年~1年で6~8割の方は自然治癒しますが、その一方で後述する他のタイプに移行する方も少なくありません。

多発型

単発型の円形脱毛症が2箇所以上できるタイプです。複数の脱毛斑が進んで大きな脱毛部分を形成することもあります。このような脱毛部分が頭髪以外の全身に渡って出来る方もおられます。

多発型の円形脱毛症は、単発型よりも治癒するまで時間がかかります。とはいえ、自然に治癒する方も少なくありません。

多発融合型

複数の箇所に脱毛斑が出来る点では多発型の円形脱毛症と同じですが、以下の場合は特に区別されることがあります。

びまん性

びまん性の円形脱毛症は、複数以上の脱毛斑が頭髪全体に発生し、数多くの髪の毛が全体的にまんべんなく(平均的に)抜けていく脱毛症です。後述する全頭型や汎発型へと進行するケースが多く、とても治療が難しい難治性の脱毛症です。

蛇行性

文字通り、蛇のような細長い脱毛斑が発生する脱毛症です。幼児によく見られる脱毛症で、多くの場合、側頭部や後頭部に不規則な脱毛が生じます。

全頭型

全頭型は、円形脱毛症の脱毛斑がいくつも発生し、そのうち髪全体に渡って毛が抜け落ちる脱毛症です。先ほど説明したびまん性の円形脱毛症は、まんべんなく徐々に薄毛になっていくのに対し、こちらの全頭型は、頭髪全体の髪の毛が一気に抜け落ちる傾向が見られます。

全頭型は急激な頭髪の脱毛が起こり、頭部に激しいかゆみを感じる方もおられます。改善にはとても多くの時間がかかる一方、比較的短期間で自然に治癒した方のケースも報告されています。

汎発型

汎発型(はんぱつがた)は、毛髪に限らず、眉毛、まつげ、あごひげ、脇毛、陰毛など、全身に渡って脱毛が発生するタイプです。いくつもの脱毛斑が重なって大きな脱毛部分を発生させているという観点から、円形脱毛症の1種とみなされます。

汎発型の円形脱毛症は、脱毛するメカニズムが頭髪のみの場合と同じであり、悪性円形脱毛症や全身脱毛症(全脱)とも呼ばれます。汎発型は非常に治療が難しい難治性の円形脱毛症であり、なかには自然治癒する方もいますが、一般的には症状の改善に非常に時間がかかるタイプです。

円形脱毛症の原因

円形脱毛症の原因は、自己免疫反応です。円形脱毛症は、自己免疫疾患といえます。

体内のTリンパ球(リンパ球の一種)は、体外からの異物を認識したら、それを排除するために攻撃を行います。これを免疫反応と言います。しかし、なんらかの理由でTリンパ球は、毛母細胞などの毛根を異物と認識してしまい、攻撃を始めます。

本来は自分自身の身体の一部であるはずの毛根を、Tリンパ球は異物とみなしてしまい、攻撃を始めることがあります。これを自己免疫反応といいます。このため円形脱毛症は、自己免疫によって発症する自己免疫疾患の1つと言われます。

免疫反応や自己免疫反応には、さまざまな例が挙げられます。このうち、なぜTリンパ球が毛根を勘違いして異物と認識することがあるのか、その原因はよくわかっていません。攻撃を受けた毛根組織は萎縮してしまい、活動が低下します。

毛根は毛包という部分によって包み込まれています。この周りには、組織学的に「swarm of bees」(蜂の巣)といわれるリンパ球の浸潤が見られます。自己免疫反応によって、毛根組織はダメージを受けますが、この反応が無くなれば、元通りの毛が再生されます。

また、円形脱毛症は、すべての毛髪組織のもととなる幹細胞への影響はありません。幹細胞は毛根上部のバルジと呼ばれる領域に存在しますが、自己免疫反応で攻撃されるのはメラニン関連のタンパク質と考えられています。このため、円形脱毛症は、永久脱毛になることはありません。

こうしたことから、円形脱毛症を引き起こすTリンパ球がなぜ毛根を誤って攻撃するのかは未解明ですが、円形脱毛症のメカニズムは解明が進んでおり、自然に治癒する可能性や、永久脱毛するものでは無いことが明らかになっています。

円形脱毛症とストレスやアレルギーの関係

どうして円形脱毛症を引き起こすTリンパ球の誤った毛根への攻撃(自己免疫反応)が起きるのかついては、従来から精神的なストレスが原因だと考えられてきました。

しかし、円形脱毛症は、精神的なストレスが大きいとは考えにくい、生まれたばかりの幼児でも発症しており、精神的なストレスだけではすべてを説明できません。

とはいえ、精神的なストレスは、主な原因では無いものの、自己免疫反応を引き起こす誘因のひとつではあると考えられています。このほか、円形脱毛症は自己免疫疾患ですから、やはり免疫システムが関わるウィルスへの感染や、運動不足・過度な運動・生活習慣の乱れなどによる肉体的なストレスも、誘因の1つと考えられています。

ストレスに代わって円形脱毛症に至る自己免疫反応の主な原因として考えられているのが、アレルギー反応です。アレルギーは免疫反応が行き過ぎた過剰な反応を指す言葉であり、やはり免疫システムが関わってきます。

円形脱毛症との関連が推測されているアレルギー性疾患には、アトピー性皮膚炎、喘息、花粉症などが挙げられます。例えば、アトピー皮膚炎と円形脱毛症には密接な関連があるとされていたり、花粉症が酷くなった時期に円形脱毛症が治癒するといった症例もあります。

その一方、アレルギーを持っていない円形脱毛症の場合も、引き金になるのはストレスやウィルス感染だが、それによって自己免疫の異常が一時的に生じ、脱毛が発生すると考えられています。

また、ストレスが直接の原因では無いとしても、それをきっかけにアレルギー反応を引き起こすことで、円形脱毛症が重症化する可能性も指摘されています。

やはりアレルギーを持った方は、たとえ単発型でも円形脱毛症の進行が進みやすく、完治は難しいと考えられています。その一方、非アレルギーの方は、ストレスなど自己免疫反応の異常を招いた要因を取り除けば、改善や完治する方も少なくないと考えられています。

円形脱毛症の治療

円形脱毛症の治療に関しては、日本皮膚科学会より治療ガイドラインが発表されています。このガイドラインはあくまでも一定の治療の目安であり、各医師がこのガイドラインに縛られることはありません。

円形脱毛症の治療には、免疫機能を抑制するステロイド剤が最も広く用いられます。主に程度が軽い単発型の円形脱毛症に対して、外用(塗り薬)のステロイド剤が処方されます。

その一方、ステロイドの局所注射や内服(飲み薬)ステロイド剤は、重度の汎発型に対しても高い効果が見られます。塗り薬のステロイドは、皮膚の内包までの浸透力がそう高くないため、円形脱毛症が重く進行した方には、こうした処方が行われます。

なお、円形脱毛症の治療にステロイドを使うのは、リンパ球の自己免疫反応を抑制するためであり、脱毛の部分でリンパ球の浸潤が多くない場合は、ステロイドは有効ではありません。

また、ステロイドの服用を中止すれば、円形脱毛症は再発の可能性があります。ステロイドの内服は、胃潰瘍や骨粗鬆症など全身的な副作用のリスクがあります。服用量自体も少量にとどめるべきですし、定期的な検査を受け、副作用の程度を確認する必要があります。

このほか、円形脱毛症の治療に関しては、さまざまな方法が提唱されてきましたが、根本的な治療方法は確立されていません。日本皮膚科学会の治療ガイドラインでも、精神安定剤や漢方薬療法などは「用いないほうがいい」とされています。

円形脱毛症に関しては、非常に多種多様な民間療法、鍼灸治療、睡眠療法などが考案されています。しかし、どれも科学的な根拠は乏しく、改善効果が無い治療法に安易に頼るべきでは無いでしょう。

その一方、円形脱毛症の発症に関わるリンパ球の反応には、遺伝的な背景があることがわかっています。近年では、米コロンビア大学メディカルセンターのAngela Christiano教授が「円形脱毛症の発症に8つの遺伝子が関与している」と発表するなど、遺伝子レベルの研究も進んでいます。