17型コラーゲンが白髪・脱毛を抑制する

「17型コラーゲンが白髪・脱毛を抑制する効果がある」という研究成果が、東京医科歯科大学(国立大学)・難治疾患研究所の西村栄美教授(幹細胞医学分野)を中心とする研究グループから発表されています。

西村さんは滋賀医科大学を卒業後、京都大学医学部附属病院で皮膚科研修医として京大の大学院で医学博士号を取得。北海道大学特任助教授や金沢大学がん研究所教授を経て現職に至っており、老化現象を幹細胞の観点から明らかにする分野でトップクラスの女性研究者です。

今回取り上げる17型コラーゲンの毛髪への効果は、西村さんの研究グループと、北海道大学・清水宏教授や、金沢大学・田所優子助教の研究グループとの共同研究による成果です。西村さんはこの研究成果を受賞理由として、第8回(平成23年度)日本学術振興会賞(生物系)を受賞しています。

西村さんは、黒髪のもととなる色素幹細胞を特定し、この色素幹細胞を維持するために毛包幹細胞がニッチ(幹細胞周囲の微小環境)細胞として働いていることや、さらにその毛包幹細胞が維持されるには17型コラーゲンが必須であることを明らかにしています。

そして西村さんは、17型コラーゲンが毛包幹細胞の維持を通じて、白髪や脱毛を抑制していることを明らかにしました。17型コラーゲンを失えば、色素幹細胞と毛包幹細胞という2種類の異なる幹細胞の相互作用=「黒い髪の毛」の「発毛」作用が失われるからです。

ここでは、17型コラーゲンが白髪や脱毛を抑える仕組みや、これが白髪・薄毛の予防や治療に関する応用へとつながる可能性について、詳しく取り上げます。

17型コラーゲンとは

そもそもコラーゲンとは、人間の体内に存在する全タンパク質の約3割を占めるたんぱく質の一種です。人体には、細胞と細胞の間にあって細胞が生き続ける環境を維持する「細胞外マトリックス」(細胞外基質)という部分がありますが、コラーゲンは、この細胞外マトリックスにおける非常に重要な主成分です。

人間をはじめとする脊椎動物は、30種近くのコラーゲンを有するとされ、現在28の型について研究が進んでいます。主にコラーゲンで構成された「細胞外マトリックス」は、単に細胞の間を埋めるのではなく、細胞が生きつづけるために必要不可欠な環境そのものです。

特に西村さんの研究は、17型コラーゲンが毛包幹細胞という細胞の維持にとって必須であることを明らかにした点で画期的といえます(毛包幹細胞については、後ほど説明します)。

このコラーゲンの1種である「17型コラーゲン」とは、col17a1 proteinやBP180、BPAG2など、さまざまな別名を持つ「ヘミデスモソーム」(ヘミデスモゾーム、半接着斑ともいいます)のたんぱく質で、「細胞接着分子」の「膜貫通タンパク質」です。

人体では、一部を除いた大半の細胞は、細胞同士、あるいは、細胞と細胞外マトリックスが結合し、組織や器官を形成しています。これを細胞結合といい、固定結合、連絡結合、閉鎖結合の3種類の細胞結合があります。

このうち固定結合は、さらに接着結合、ヘミデスモソーム(半接着斑)、デスモソーム(接着斑)に分かれます。17型コラーゲンは、ヘミデスモソームで結合(接着)したたんぱく質です。

なお、この3つの違いは、接着結合だけ細胞骨格(細胞質の内部に存在する繊維状の構造。細胞の形を維持する役目がある)の主成分が異なり、残り2つは細胞骨格の主成分が同じですが、デスモソーム(接着斑)は「細胞どうし」の接着、ヘミデスモソーム(半接着斑)は「細胞と細胞外マトリックス」の接着装置を指します。

ちなみに、「細胞結合」と「細胞接着」の言葉の使い分けは、研究者の間でも曖昧ですが、「細胞結合」は細胞の構造、「細胞接着」は細胞の結合(接着)の過程に着目した考え方ともいえます。

また、17型コラーゲンは、「膜貫通」タンパク質です。主にコラーゲンで構成された細胞外マトリックスは、細胞と細胞の間に存在して、細胞が生き続けることができる環境そのものを維持する部分ですが、常に細胞膜に付着する「内在性膜タンパク質」と、一時的に結合している「表在性膜タンパク質」に分かれます。

このうち内在性膜タンパク質は、膜を完全に貫いている「膜貫通タンパク質」と、一方の端のみで細胞膜と結合している「一回膜貫通型タンパク質」があります。このうち、17型コラーゲンは、細胞膜を完全に貫いて結合する「膜貫通タンパク質」の細胞接着分子です。

17型コラーゲンとは(簡単なまとめ)

17型コラーゲンは、細胞と細胞の間を埋めることで細胞の生存に必須な環境を提供する「細胞外マトリックス」(細胞外基質)という部分の主成分であるコラーゲンの1種です。

特に17型コラーゲンは、毛包幹細胞という細胞が生きていくためにとって必須な環境を提供するものであることが、西村さんの研究によって判明しています。

コラーゲン自体はタンパク質の1種です。17型コラーゲンは「ヘミデスモソーム」(半接着斑)と呼ばれる細胞と細胞外マトリックスとの結合(接着)を行う細胞接着分子であり、細胞膜を完全に貫く「膜貫通タンパク質」でもあります。

2つの幹細胞と17型コラーゲン

毛包幹細胞と色素幹細胞という2種類の幹細胞は、毛包全体に新しい細胞をどんどん供給し、表皮が傷ついたときの修復機能を持っていることが知られています。

毛包とは、皮脂腺、立毛筋とバルジ、毛球部と毛母細胞、毛乳頭などで構成された毛根(毛穴から下の目に見えない部分)を包み込み、発毛・皮膚呼吸・皮脂の分泌・発汗などの役割を促す重要な部分です。

毛包幹細胞も色素幹細胞も、毛根のうち、いわゆる「鳥肌を立たせる」役割で知られる立毛筋とバルジの領域に存在します。2つの幹細胞はここから毛包に新しい細胞を続々と送り込み、毛髪の元となる細胞の供給源となっています。

ここで西村教授は、17型コラーゲンが毛包幹細胞の維持に必須というだけでなく、その毛包幹細胞も、TGF-βシグナルと呼ばれる過程を通じて、色素幹細胞を維持するために必須な存在となっていることを突き止めています。

幹細胞が生きつづけるために必要な微小環境のことを「ニッチ」(幹細胞ニッチ)といいます。17型コラーゲンが存在することは毛包幹細胞のニッチ環境であり、毛包幹細胞が存在することは色素幹細胞のニッチ環境(この場合はニッチ細胞ともいいます)といえます。

ここで重要なのは、そもそも17型コラーゲンが無ければ、2つの幹細胞がともに存在できないということです。その意味では、17型コラーゲンは両方の幹細胞のニッチ環境であると言うことができます。

幹細胞と黒い髪の健全な成長

そもそも「幹細胞」とは、細胞分裂によって、自分自身と同じ細胞を作る能力(自己複製)と、別の種類の細胞を作る能力を両方持ち合わせることで、自分自身が無くなることがなく、限りなく増殖できる細胞のことです。

例えば、ここで取り上げている毛包幹細胞は、毛髪のもとになる角化細胞を生み出すとともに、自分自身と同じ細胞をコピーのように作ることで、限りなく角化細胞を生み出す機能を維持しています。

また、色素幹細胞は、黒髪のもとになる色素細胞を生み出すとともに、自分自身と同じ細胞を複製することでその機能を維持し続け、際限なく黒い髪の色を生み出す機能を維持しています。

その一方、西村教授の研究では、実は毛包幹細胞自身が17型コラーゲンを産生していることも判明しています。これに加え、17型コラーゲンが毛包幹細胞にとってのニッチ環境であり、毛包幹細胞が色素幹細胞にとってのニッチ細胞であることを通じて、白髪と脱毛を抑えていることが明らかになっています。

もしも17型コラーゲンが欠乏すれば、毛包幹細胞も色素幹細胞も行き場を失って生存できなくなります。実際、先天的に17型コラーゲンを欠損した方には、早発性の脱毛が見られます。

その一方、いつまでも黒い髪の生育と、生え変わりを通じた髪の毛のボリュームの維持ができるのは、17型コラーゲンが毛包幹細胞と色素幹細胞が生存できる環境を整えているからだといえます。

この画期的な研究成果の大きな影響は、17型コラーゲンを主成分とした新薬の開発です。まだまだ医薬品としての承認や認可には程遠く、さまざまな研究者や企業が積極的に取り組んでいる段階ですが、近い将来、薄毛・脱毛の治療に関する新たな選択肢が増えるものと期待されています。